武勇伝せんぱい

これは昔、同じ職場にいたセンパイのことだ。

正直、たぶんどこの職場にも近いような人はいるだろうとは思う。

そう、わかりやすく言えば、彼は「自称:昔は悪だった」属性のお方であった。

職場的には自分の方が先に入社していたが、相手が中途半端に年上だったため、それなりに丁重に扱っていた。

しかし、年上の後輩など、そもそも学生時代ですら上下関係とはあまり関わりのないすごし方をしてきた僕である。正しい扱い方なんてものが理解できるはずもなく、取り扱い方を間違えてしまったのかもしれない。

そんなちょっとした後悔とともに、少し彼のことを書きたいと思う。

武勇伝せんぱいは入社してしばらくは大人しく業務をこなしてくれていた。

もともとプライベートでは関わることの少ない職場である。

特に大した問題が発生するわけでもなく、数年が経過した。

色んな意味でせんぱいは慣れたのであろう、自分の過去の話をするようになった。

「警察の世話には何度もなった、(あいつら)大したことない」

「ビール瓶の先を割って、ケンカ相手に突きつけたことがある」

「古傷が疼く(膝に水が溜まる)」

2ちゃんねるでしか見たこと、聞いたことがないような話が目の前にドンドン飛び出てくるのである。しかも聞いてないのに。

40歳を目前とする彼から聞けるお話は昔の悪行と昨日のパチンコの話だけである。

さすがに職場のみんなの顔も引いているのがわかったのだろう、最後はパチンコの話ばかりになった。

・・・タチがわりいな

うちの仕事は職業柄、たまにお客さんから文句を頂戴することがある。

どうしようもないことから、仰るとおりなことまで様々だ。

これも仕事なのでその後の対応は様々ながらも、黙って受ける。

だが、武勇伝せんぱいは黙っていないのだ!!

お客さんがボヤいたりしようものなら、その近くで聞こえるように反論する。

おめえが悪いんだろう、という中身0%の反論だ。

しかし武勇伝せんぱいにとってこの程度はジャブ程度。

油断しているとお客に向かって半ギレするという右ストレートを放つのだ!

さすがに注意するものの、反省はなし。

むしろ、普段言わない僕らの代弁をしてやったんだぞ、くらいな勢い。

しかも先ほどのジャブ程度の行動に関しては半分以上がウソである。

ある日のこと。

「あの客がうるさかったんで、黙らしておきました」ドヤァ

僕、失神。

だって、そのお客さん、ずっと僕の近くにいたもの。

言ってれば100%気づくもの。

なんで意味のないウソをつくの?

そう、すべては新しい武勇伝の始まりなのだ!

お願いだから年々増えてきている業務上のミスをなくしていただきたい。

同棲しているわけでもない彼女が別の男と自分の家で致していたとかいう本当に聞きたくない話もやめていただきたい。

そんなことを思っている矢先に武勇伝せんぱいは姿を消した。

ある日、無断欠勤を行い、そのまま来なくなったのである。

武勇伝せんぱいはいつの日か言っていた。

「自分、やめるときはバックれてやめますんで」ドヤァ

そんなところだけは律儀に守っていった彼はもはや伝説。

いなくなる前に一度だけでも本気で殴っておけばよかった